講師:雪朱里さん(著述業)・山田和寛さん(デザイナー)
聴き手:室賀清徳さん(編集者)
19世紀末から現代にいたるまで、数多くの和文書体がつくられてきました。私たちは現代のデジタルフォント環境のなかで、これらの膨大な書体群に自在にアクセスできます。
しかし、多くの場合、これらの書体はスタイル別に分類され、それぞれの背景にある歴史の蓄積と時代の要請について語られることはありません。
これらの膨大な書体について、私たちはいま、どのように向き合うべきなのでしょうか。
書体はまた、メーカー、設計者、研究者、ユーザーなど、 書体と関わる立場によってもさまざまに異なる様相を見せます。
つまり、いま必要とされている「書体を見る目」とは、知識と具体的な経験のうえに、書体を点ではなく、それらをつないだ線や面としてとらえる知のあり方だといえるでしょう。
本セミナーでは著述家の雪朱里さんとデザイナーの山田和寛さんを招き、それぞれの「書体を見る目」についてお話をうかがいます。
雪さんは和文書体について数多くの著作を発表し、それまで業界内部に限られていた書体の世界とその魅力を、より広い読者に伝えてきました。同時代の書体が生まれる現場や金属活字や写植の時代についての取材は、貴重な歴史史料ともなっています。
山田さんはデザイナーとして書籍や雑誌を中心に活動する一方、和文書体デザイナーとしても独自に活動をしています。素材としての文字を自在に使いこなしたデザインや、デザイナーとしてのニーズに応えた書体作りなど、現在の日本においてもっとも先鋭的なデザイナーの一人です。
和文書体について独自の関わり方を見せてきた二人からはどのような書体の風景が見えるのか。そこで、知識と経験、現代と過去はどのようにつながるのか。つないできたのか。
和文書体をより深く、広く考えるための待望のセミナーです。
雪朱里さんトークタイトル
「引き継がれてきたもの:書体と人とその時代」
概要
文字は人がつくっている。そのことを知ってから、私の「文字をつくるひとや現場をめぐる取材活動」は始まりました。だれかに伝えたいことがあって、文字を記し、文章をつづる。それがだれかの目にふれるとき、内容を読むより前にまず、文字が並んだ表情によって印象はつくられます。私たちの思考、生活、文化を支えてくれているのは、ごく当たり前のように身のまわりにある「文字」なのです。ではなぜ、人や現場を通じて文字を取材するのか。それによってなにを感じ、なにが見えてきたのか。極私的かもしれませんが、そんなお話をしたいと考えています。
●雪朱里(ゆきあかり)
著述業。印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000 年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動を行う。著書に『「書体」が生まれる』(三省堂)、『もじモジ探偵団』『時代をひらく書体をつくる。』(以上、グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)ほか。『デザインのひきだし』レギュラー編集者も務める。
山田和寛さんトークタイトル
「部分と全体」
概要
ヴィジュアルコミュニケーションデザインを行ううえで避けて通れないのが「文字」です。それは「活字」を扱うタイポグラフィからタイトルの「描き文字」におけるレタリングや作字という行為まで幅広く、その間の領域もグラデーションでゆったりとつながっています。文字を扱うことはそれそのものがヴィジュアルコミュニケーションといえるでしょう。私がどのように文字を学び、描き、使い、読み、対話してきたのか、装丁やグラフィックデザインの仕事、海外デザイナーとの協働、教育現場での実践なども交えてお話します。
●山田和寛(やまだかずひろ)
デザイナー。松田行正率いるマツダオフィス/牛若丸でブックデザイン修行の後、Monotype で「たづがね角ゴシック」を設計。2017 年にデザインスタジオ nipponia を設立。書籍の装丁を軸
に文字デザイン、ヴィジュアルコミュニケーションデザイン分野で活動する。
仮名書体「ヱナ」ファミリー「クナド」ファミリー、文芸誌『群像』専用書体〈ぐんぞう〉などを制作。女子美術大学非常勤講師。www.nipponia.in